はじめに
心臓は、四つの部屋に分かれています。そのうちの左心房と左心室という部屋を隔てている2枚の薄い膜を僧帽弁と呼びます。
僧帽弁閉鎖不全症は、その膜がだんだん厚ぼったくなってうまく閉じることができなくなり、心臓が収縮するときに、そのすきまから血液が逆流してしまう病気です。
弁が厚くなるのは弁の部分に酸性ムコ多糖類が沈着して粘液腫様変性を起こすことによりますが、その発生原因ははっきり解明されていません。左心室から左心房に逆流する血液の量が増えると左心房がだんだん大きくなります。そのような状態になると左心房の近くを通っている気管支を圧迫するので、その刺激で咳(コーンコーンという乾いた咳)をし始めます。
また、左心房がもっと大きくなると肺から肺静脈を通って左心房にうまく戻ってこれなくなるので、肺の毛細血管の圧力が高まり血液の中の血漿成分が肺胞(肺の空気が入るところ)という部分に溜まります。そうなると息苦しいので、肺胞に溜まった液体を外に出そうとする反応が起き、気管内の分泌物が増えます。
その結果その溜まった分泌物を気管から体の外に出そうとする反応が起こります。それが喘息のような咳(ゴホッ、ゴホッという湿った咳)です。逆流する血液量が増えることにより、全身に行き渡る血液の量が減るので、疲れやすくなりお散歩を嫌がるようになります。もっとひどくなるとお散歩の途中で気を失ってしまいます。
すべての犬種に発生しますが、とくにマルチーズ、シー・ズー、ポメラニアン、プードル、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルなどの小型犬に多発します。4〜5歳をピークに歳をとるにつれて発生が増加します。
咳をする原因として、気管支炎、肺炎などの呼吸器の病気があげられますが、正確に診断するためには、身体検査、レントゲン検査、心エコー検査、心電図検査、血液検査などの精密検査が必要となります。
初期の場合目立った症状は出ませんが、聴診すると心雑音を発見できます。もしワクチン接種時の身体検査で心雑音が確認されたときは、今の心臓の状態をより正確に把握するために、精密検査をお受けになることをおすすめします。